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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和49年(ワ)8号 判決

原告

佐世保陸運有限会社

被告

竹原孝

主文

一  被告は原告に対し、金八五万四、六六四円及びこの内金二万九、七三〇円に対する昭和四七年三月二五日から、内金二〇万円に対する同年二月一六日から、内金二〇万円に対する同年三月一六日から、内金四二万四、九三四円に対する同年二月一二日からそれぞれ支払がすむまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その一を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一双方の申立

一  原告

(一)  被告は原告に対し、金一六七万九、五九八円及び内金二万九、七三〇円に対する昭和四七年三月二五日から、内金四〇万円に対する同年二月一六日から、内金四〇万円に対する同年三月一六日から、内金八四万九、八六八円に対する同年二月一二日からそれぞれ支払がすむまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  被告は、昭和四七年一月一〇日運送業を目的とする原告会社に雇用され、自動車運転手として業務に従事していたものである。

二  被告は、昭和四七年三月二五日午前五時五〇分頃、広島県佐伯郡廿日市町日本生命廿日市営業所前国道二号線道路において、原告会社の業務として原告会社所有の貨物自動車(車両番号佐世保1あ一四四号)を運転して大阪方面に向つて進行中、先行していた訴外今井清人運転の小型貨物自動車(車両番号広島4な八、八八七号)の後部に自車前部を衝突させ、右小型貨物自動車を運転していた右訴外人に対し、全治二六〇日を要する傷害を負わせた。

三  右事故は、被告が被害車との間に充分な車間距離を保たず、且つわき見運転をしたまま加速したため発生したものであり、被害車は徐行したり急停車したり等しないで同一速度で進行していたのに、被告の一方的な重過失によつて生じたものである。

四  原告は右事故により(一)の損害を蒙り、(二)、(三)のとおり支払つた。

(一)  被告が運転していた原告会社の所有車は破損し、その修理に金二万九、七三〇円を要する。

(二)  原告会社は、被告の使用者として右被害者と示談交渉し、昭和四八年一月一四日被害者との間に、原告と被告が連帯して被害者に対し、治療費、慰謝料、休業補償その他の損害として、昭和四八年二月一五日金四〇万円、同年三月一五日金四〇万円を支払う旨の示談が成立し、原告は右約定どおり支払つた。

(三)  原告は、広島労働基準局長から、労働者災害補償保険法第三条に基き、被害者に支払つた金八四万九、八六八円の求償を受け、昭和四九年二月一二日その支払をした。

五  よつて原告は被告に対し、右損害金二万九、七三〇円及びこれに対する不法行為後の昭和四七年三月二五日から、使用者として被害者に支払つた金八〇万円及び労働基準局に支払つた金八四万九、八六八円ならびにこれらの金員に対する支払つた日からそれぞれ民法所定年五分の割合による損害金、利息の支払を求める。

第三請求原因に対する認否ならびに抗弁

(認否)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実は認める。

三  同三の事実のうち、被告がわき見運転して加速した事実は否認するが、その余の事実は認める。

四  同四の事実のうち、(一)及び(三)の事実は認めるが、その余の事実は不知。

五  同五の主張は争う。

(抗弁)

一  原告代表者は、被告に対し、昭和四七年三月二四日午前七時、佐世保市から長崎に貨物の運送を命じたので、被告は貨物自動車を運転して長崎に行き、同日午後六時頃佐世保市に戻つたところ、更に訴外岡田運転手と共に大阪へ貨物を運送することを命じられ、同日午後七時三〇分頃岡田運転手とともに貨物自動車を運転して佐世保を出発し、翌早朝本件事故を起したものである。

このように本件事故は、原告代表者が被告に対し十分な休息時間を与えないで就労させた労務管理上の過失によつて生じたものであるから、原告に対する求償額を定めるについて斟酌さるべきである。

第四抗弁に対する認容

一  被告が本件事故の前日たる三月二四日主張のとおり貨物自動車を運転して長崎までおもむき、当日午後六時頃帰社し、同日午後七時半頃大阪に向けて出発したことは認める。

しかし、本件自動車には寝台の設備があり、二人乗務であつたし、佐世保から事故地点まで約四二〇キロメートルを約一〇時間五〇分の時間をかけているので、十分休養はとれた筈である。

第五証拠〔略〕

理由

一  請求原因一、二の事実ならびに請求原因三のうちわき見をして急に加速した点を除くその余の事実、請求原因四の(一)、(三)の事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると本件事故は十分な車間距離をとらないで進行していた際、眠けがさして操行を誤り、被害車に追突したものであつて、被告の過失によつて生じたものであることが認められる。

〔証拠略〕によると、請求原因四の(二)の事実が認められ、これに反する証拠はない。

二  そこで被告の抗弁について判断する。

被告は、昭和四七年三月二四日午前七時から午後六時まで原告の業務で佐世保市から長崎市に車を運転して往復し、更に午後七時三〇分頃原告の業務で車を運転し、訴外岡田運転手と二人乗務で大阪に向け出発し、午前五時五〇分頃広島県廿日市で本件事故を超したことは当事者間に争いがない。

そして〔証拠略〕によると、原告は本件事故当時約六〇台の自動車(但し牽引車二台は、一台を二台分に数える。)を有していたのに運転手は五〇人位しかいなかつたこと、夜行長距離運送業務は、日中仕事をした者が乗務し、しかも夜行でトンボ返り(往復合せて二夜連続乗務となる。)した場合でも、勤務時間中に帰社すればその日の運転業務に従事させていたこと、被告の給与は日給で、通常長距離乗務の手当(一キロメートル当り七円と食事代四食分計八〇〇円)を含めて一ケ月金六万円程度の低い収入であつたこと、原告は加害車に任意保険を付して損害をカバーできたのにこれを怠り、任意保険に加入していなかつたこと、原告は現在も運送業務を相当の規模で営んでいること、本件加害車には仮眠用の寝台がついているが狭いものであること等の事実が認められ、又本件事故の主困が眠気による運転の誤りによつて生じたこと前認定のとおりである。

以上の事実を総合(特に本件事故の主因が眠気を生じた点にあるが、これは原告の前認定の労務管理と密接な関係があること、原告は相当の規模の運送業者であるのに、被告は当時月六万円程度の収入であつたこと)すると、原告の被告に対する求償は、過失の内容、報償責任の原理から、その五割を削減するのが相当である。

そうすると被告は原告に対し、請求原因四の(一)の損害金二万九、七三〇円及びこれに対する不法行為後の昭和四七年三月二五日から民法所定年五分の割合による遅延損害金、請求原因四の(二)、(三)の求償債権の五割の金八二万四、九三四円及びこれに対する免責の日からそれぞれ民法所定年五分の割合による利息(不真正連帯債務にも民法四四二条二項が準用されるものと解する。)の支払義務がある。

三  よつて原告の本訴請求は右認定の限度において理由があるので正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、八九条を適用し、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

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